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福岡地方裁判所 昭和44年(ワ)515号 判決

原告

被告

重富元利

主文

被告は原告に対し金二三九万七、一八九円および内金一九六万三、五八〇円に対する昭和四一年五月一〇日以降、内金四三万三、六〇九円に対する同年一〇月八日以降完済に至るまで、各年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

一、被告は糸島郡前原町大字浦志において自動車整備業を営むものであり訴外内藤健二は被告に雇傭され自動車整備見習工として自動車の整備および整備車の試運転等の業務に従事していた。右内藤は昭和四〇年一一月三日被告が九州電力株式会社から修理を依頼され保管中であつた小型貨物自動車(福四に五四五七号、以下本件自動車と称する)の試運転のため、同日午前八時一〇分頃唐津市方面から福岡市方面に向けてこれを運転し、時速約八〇粁から九〇粁の速度で糸島郡前原町大字高田、高田バス停西方二〇〇米の国道上を進行し道路交通法によつて規制された時速六〇粁の制限に違反しかつ安全運転の操作を誤つた過失によつて、折から同地点を対向して進行中であつた訴外槇義信の運転する第二種原動機付自転車に本件自動車を衝突させ同訴外人に対しては頭蓋内出血、同乗者たる訴外槇恵美子(満二才)に対しては頭蓋底骨折、同槇テイに対し通院加療約五ケ月を要する骨盤骨折並に右上腕及び前腕挫創の各傷害を与え、これに因り義信は同日午後一時頃恵美子は同日午前一〇時頃それぞれ死亡した。よつて、被告は本件自動車の運行供用者として自動車損害賠償保障法第三条により右事故に因る損害賠償の義務あるものというべきである。

二、損害

(1)  被害者槇義信およびその家族の損害

(イ)  治療費 七、二九〇円

亡義信の本件事故後死亡に至るまでの傷害治療費金一万四、五七九円より国民健康保険法による給付金七、二八九円を控除した残額

(ロ)  葬儀費 三万一、七六四円

(ハ)  逸失利益 一、〇五二万三、一四六円

亡義信は本件事故当時農業を営んでいたものであるが、その耕地等は別紙(一)(イ)(ロ)(リ)のとおりであり、家族構成は長女の亡恵美子、妻の訴外槇モモヱ、父の槇国美、母の槇テイ、弟である槇節男の六名であつた。そして亡義信は同人一家の家族労働量のうち農耕については約五割を、乳牛の飼育については約八・五割を占めていたものである。(別紙(三)のとおり)ところで、農林省農林経済局統計調査部および同省福岡統計調査事務所の生産費調査に基づき昭和四〇年中の亡義信の年間家族労働報酬(同人死亡後の同年分の逸失利益を含む。以下同じ)を算出すると別紙(一)(ル)のとおり金六四万七、三〇一円(円以下切捨)となり、これが亡義信の同年中の純収益と考えられる。また生活費については、農林省福岡統計調査事務所の農家経済調査によると、昭和四〇年中における経営規模一・五ヘクタール(約一町五反)乃至二ヘクタール(約二町)の農家一戸当り消費支出額は金七三万七、五〇〇円で世帯人員の平均は六・二人であつて一人当りの消費支出額は金一一万八、九五一円となるので、これが亡義信の生活費と考えられる。

そして、亡義信は事故当時二八才の健康体であり、農業による収入としては前記のとおり年額金六四万七、三〇一円の収益を挙げ、かつ生活費は右のとおり金一一万八、九五一円の支出をしていたので、事故後三五年間就労可能として次の算式が示すとおりの損害を蒙つた。

647,301円(年間収益)-118,951円(生活費)×19.917(就労可能年数35年のホフマン係数)=10,523,146円

(ニ)  慰藉料 一五〇万円

亡義信の死亡によりその妻たる訴外槇モモヱおよびその父訴外槇国美、母訴外槇テイがそれぞれ蒙つた精神的損害に対するもの。各人五〇万円宛。

(2)  亡槇恵美子およびその家族の損害

(イ)  治療費 二、二九〇円

亡恵美子の本件事故後死亡に至るまでの傷害治療費金四、五七九円より国民健康保険法の規定に基いて給付きれた金二、二八九円を控除した金額

(ロ)  葬儀費 二万九、七六三円

(ハ)  逸失利益 一一五万六、七五二円

亡恵美子は本件事故当時満二才の幼児であつたが、政府の自動車損害賠償保障事業査定基準によれば、同人は成人後一八才で就職したとして少くとも月一万二、〇〇〇円程度の収入を挙げえたものと認むべきであるから四五年間稼働するとして次の算式が示すとおりの得べかりし利益を喪失したものというに妨げない。

12,000円×12(年間の総収入)×1/2(生活費)×16.066(45年のホフマン係数)=1,156,752円

(ニ)  慰藉料 一〇〇万円

亡恵美子の死亡によりその家族である父槇義信、および母訴外槇モモヱは少くとも各金五〇万円の精神的損害を蒙つた。

(3)  ところで、亡恵美子の前記損害賠償請求権は一一八万八、八〇五円になるところこれを同人の父義信および母モモヱがそれぞれ二分の一宛相続した。

次いで槇義信は本件事故のため死亡したので、同人の損害賠償請求権金一、一六五万六、六〇二円(前記二(1)(イ)乃至(ハ)の金一、〇五六万二、二〇〇円、恵美子死亡による慰藉料金五〇万円、同人死亡による相続分金五九万四、四〇二円の合計額)を義信の妻たる訴外槇モモヱが三分の一の金三八八万五、五三四円、長男槇芳行(義信死亡時は胎児昭和四一年一月二八日出生)が三分の二の金七七七万一、〇六八円を相続した。

してみると、訴外槇モモヱは金五四七万九、九三六円(槇恵美子死亡による慰藉料金五〇万円、槇義信死亡による慰藉料金五〇万円右恵美子の損害賠償請求権の相続分金五九万四、四〇二円、義信の損害賠償請求権の相続分金三八八万五、五三四円の合計額)訴外槇芳行は金七七七万一、〇六八円(義信の死亡による相続分)訴外槇国美、同槇テイは各金五〇万円の各損害賠償請求権を被告に対して取得した。

(4)  訴外槇テイの負傷による損害

(イ)  治療費 二二万三、七三二円

槇テイが本件事故による傷害治療のため、昭和四〇年一一月三日から昭和四一年四月六日まで医療法人有田病院において診療を受けた際の治療費。

(ロ)  文書料 一〇〇円

槇テイが自動車損害賠償責任保険の査定資料として右有田病院より交付を受けた診断書の料金。

(ハ)  看護費 五万三、〇〇〇円

槇テイが前記事由により有田病院に入院した期間である昭和四〇年一一月三日から昭和四一年二月一六日までの付添看護料。

(ニ)  逸失利益 六六万〇、七六三円

内訳

(a) 休業補償 七万六、三〇〇円

槇テイは本件事故当時五二才の健康体であつて、亡義信の経営する農業、畜産業の手伝および家事労働に従事していたものであるが、その具体的所得が明瞭でないので、次の方法で同人の休業補償費を算出した。すなわち総理府統計局編第一七回、第一八回日本統計年鑑「年令階級、産業別給与額」によれば五〇才から五九才迄の女子労働者全国産業平均年令別月間賃金は昭和四〇年度において金二〇、二〇〇円、昭和四一年度において金二二、八〇〇円右賃金を平均すれば金二一、五〇〇円で日額約金七〇〇円となる、この日額を被害者槇テイの収入として、本件事故による同人の休業期間中の損害を算出すれば、次の算式が示すとおり金七万六、三〇〇円となり、同人は本件事故のため少くとも右金額を下廻らない損害を蒙つたものというべきである。

109(昭和40年11月3日から昭和41年2月19日までの治療期間)×700円=76,300円

(b) 後遺症による逸失利益 五八万四、四六三円

被害者テイは本件事故によつて受傷し昭和四一年二月二〇日以降後遺症状が残るに至つたが、その程度は労働基準法施行規則第四〇条の別表第二の障害等級にあてはめると同表第一〇級七号に該当する。したがつてテイは昭和三五年一一月二日付労働省労働基準局長通達別表第一によりその労働能力の一〇〇分の二七を喪失したものといえる。よつて右労働能力喪失率によつて右テイの得べかりし利益の喪失額を算定すると次のとおりとなる。

252,000円(日額700円に対する一年間の収入)×8.590(11年のホフマン係数)×27/100(労働能力喪失率)=584,463円

(ホ)  慰藉料 一〇万九、〇〇〇円

被害者テイは、本件事故による傷害治療のため、昭和四〇年一一月三日から同四一年二月一九日まで一〇九日間有田病院において施療を受けたので、これによる慰藉料額は一日金一、〇〇〇円合計金一〇万九、〇〇〇円をもつて相当とする。

三、原告のした損害てん補

(1)  被害者亡槇義信、亡槇恵美子関係

被告は本件事故に関しては、自賠法にもとづく自動車損害賠償責任保険の被保険者でなかつたため、原告は訴外槇モモヱ、槇芳行、槇国美、槇テイ等の同法第七二条にもとづく請求により、死亡による損害てん補の法定限度額二〇〇万円(亡義信、亡恵美子各金一〇〇万円)から被告および行為者本人たる内藤健二が支払つた金四万二、〇〇〇円(被害者亡義信、同亡恵美子に対し各金二万一、〇〇〇円)と国民健康保険法の規定に基づいて給付された葬祭料金四、〇〇〇円(亡義信、同恵美子に対し各金二、〇〇〇円)を控除した金一九五万四、〇〇〇円に死亡に至るまでの傷害による損害金九、五八〇円(亡義信に対し金七、二九〇円、亡恵美子に対し金二、二九〇円の治療費)を加えた金一九六万三、五八〇円を昭和四一年五月九日右訴外人等に支払つてその受けた損害をてん補した。

(2)  被害者槇テイ関係

原告は本件事故後、右テイの請求により同人の傷害による損害てん補の法定限度額金三〇万円から国民健康保険法の規定に基づいて給付された金九一、三九一円及び加害者内藤健二が治療費として支払つた金三五、〇〇〇円を控除した金一七三、六〇九円に自賠法施行令第二条別表に定める後遺障害一〇級(被害者テイは当時施行の同令第二条別表第一〇級第七号に該当)に対する障害補償費二六〇、〇〇〇円を加算した金四三万三、六〇九円を昭和四一年一〇月七日右テイに支払つてその受けた損害をてん補した。

四、そこで、原告は自賠法第七六条にもとづき前項の支払額を限度として、これらの被害者が有する損害賠償請求権を取得したので債権管理法に基づき被告に対し昭和四一年五月九日を履行期限として金一九六万三、五八〇円およびこれに対する右履行期限の翌日から完済に至るまで年五分の割合による損害金の各支払をなすよう催告したが支払に応じない。次いで、同年一〇月七日を履行期限として金四三万三、六〇九円およびこれに対する右期限の翌日から完済に至るまで年五分の割合による損害金を支払うよう納入告知をしたが前同様これも支払に応じないので、被告に対し右合計金二三九万七、一八九円および内金一九六万三、五八〇円に対する昭和四一年五月一〇日以降内金四三万三、六〇九円に対する同年一〇月八日以降完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。次に原告指定代理人は、被告の過失相殺の抗弁事実は否認すると述べた。〔証拠関係略〕

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、被告の営業並に訴外内藤健二が事故当時自動車整備見習工として被告に雇傭されていたこと、本件事故発生の事実、右事故により槇義信、同乗者の槇恵美子の両名が受傷して死亡したこと、同乗者槇テイが負傷したこと、本件自動車は訴外九州電力株式会社の所有であり被告が事故当時修理のためこれを預り保管中であつたことは認めるが、被告が本件事故車の運行供用者であること並に亡義信、亡恵美子、訴外槇テイ、同槇モモヱ、同槇国美、等に原告主張の損害が生じ原告が、その一部をてん補した事実は争う。

本件事故車の保有者かつ運行供用者は訴外九州電力株式会社であり、訴外内藤健二は事故当日の就業時間前に同僚と共に無断で整備未了の右自動車を持出して運転中本件事故を起したものであつて、同訴外人には試運転の能力はなかつた。しかも右事故の発生については亡義信が第二種原動機付自転車を運転し、かつ亡恵美子を自車の前部に、テイを後荷台にそれぞれ乗せて道路中央線を越え、下を向いたまま、内藤の警笛にも気付かず進行した過失もその一因になつていたことは確かであるから被告は仮りに本件事故について損害賠償責任があるとしても、過失相殺を主張する。本件事故につき、被告は民法第七一五条による賠償責任を負担することはあつても、少くとも右自動車の保有者ではないから自賠法第三条による賠償責任を負担するいわれはない。本件自動車の保有者は前記の如く九州電力株式会社であり、かつ同社は自賠法上のいわゆる自家保障自動車の保有者に該当するから仮りに原告が損害のてん補をしたとしても賠償請求権者に代位することはできない。と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一、事故の発生

原告主張の日時、場所において訴外内藤健二運転の小型貨物自動車と訴外槇義信運転の原動機付自転車とが衝突し、訴外義信と同乗していた訴外恵美子が負傷後死亡し、同乗者の槇テイが傷害を受けたこと本件当事者間に争のないところである。

二、被告の責任

被告が自動車整備業を営む者であり、訴外九州電力株式会社所有の本件自動車を修理のため預り保管中であつたこと、訴外内藤健二が整備見習工として被告に雇傭されていたこと、は当事者間に争のないところである。この事実に〔証拠略〕を綜合して考察すると、訴外内藤は本件事故から約一ケ月位前に被告の経営する重元モータースに雇われ、採用後六ケ月間は試用期間とされているが、住込稼働中本件事故当日勤務の始まるまでの間に、修理のため保管中の本件自動車を無断で持ち出し運転中に本件事故を惹起したことを認めるに十分である。一般に自動車整備業者が修理のため自動車を預つた場合には少くとも修理や試運転に必要な範囲での運転行為を委ねられ営業上自己の支配下に置いているものと解すべきでありかつその被用者によつて右保管中の車が運転された場合にはその運行は特段の事情の認められない限り、客観的には使用者たる修理業者の右支配関係に基づきその者のためにされたものと認めるのが相当である。そして本件において訴外内藤が試用期間中であつたことや、同人が私用のため時間外にかつ無断で運転をなしたという事実はここにいう特段の事情にあたらないというべきである。そうすると被告は自動車損害賠償保障法第三条にいう運行供用者として本件事故による損害を賠償する責任があるものというべく、これと見解を異にする被告の主張は理由がない。

三、損害

(1)  被害者槇義者およびその家族の損害

(イ)  治療費 七、二九〇円

〔証拠略〕によると、亡義信は本件事故によつて受けた傷害治療のため医療法人有田病院において施療を受け死亡に至るまでの治療費として計金一万四、五七九円を負担し、その内国民健康保険法に基づいて給付された金七、二八九円を控除した残額金七、二九〇円を妻の訴外槇モモヱが立替支出したことを認め得る。

(ロ)  葬儀費 五万五、〇四八円

〔証拠略〕を綜合すると、亡義信死亡の際の葬儀費用として計金五万五、〇四六円を要したことが認められるし、右費用額は相当と認むべきである。

(ハ)  逸失利益 三七一万二、五八四円

〔証拠略〕を綜合すると亡義信は農業を営んでいたが田一町五反二畝畑は昭和三九年三反七畝翌四〇年八反二畝を耕作し、乳牛五頭仔牛一頭を飼つていたこと、そして亡義信のほか妻のモモヱ父の国美母のテイがいて田畑の所有名義や農協に届出ている耕作名義は父の国美であるが、同人は当時既に五五、六才になつていたので亡義信(昭和一二年九月一一日生)が中心になつて農耕のほか酪農をも営んでいたこと、昭和三九年の産米約一一四俵のうち七五俵を供出して代金四四万二、六〇〇円を得、翌四〇年には産米一一六俵のうち七五俵を供出(代金四七万二、七二〇円)そのほか小麦やビール麦三二俵を代金八万六、二五二円で売却しまた、昭和三九年には出乳代金六三万〇、六九九円のうち飼料その他の代金三八万八、五四一円を控除した金二四万二、一五八円を翌四〇年一月から同年一〇月までの間に出乳代金六二万八、九五六円のうち飼料その他の代金三五万五、九七六円を控除した金二七万二、九八〇円を糸島地方酪農協から受取つていること、昭和四一年一月農林省福岡統計調査事務所の資料によると、亡義信の農業にもつとも近似する志摩町では米は反収四〇七キログラム(昭和三九年度は四二六キログラム)であり、福岡地区農業所得税対策委員会と農協中央会福岡支所の作成したモデル町所得標準として志摩町では米の反収四二〇キログラム(昭和三九年四三八キログラム)収入金四万三、六七五円必要経費一万〇、八三二円を控除すると金三万二、八四三円普通畑では小麦、裸麦、豆類、野菜等で反当金三万五、六三五円から必要経費を差し引くと金二万五、三九一円であること、元岡農協から購入した稲作裏作肥料農薬等が昭和三九年金七万四、一九四円昭和四〇年金六万〇、一九五円昭和四一年金九万九、四七五円であつたことが認められる。

右事実によれば、亡義信の農業酪農所得は必要経費を控除して一ケ年金五〇万円程度の純収入があつたものとみるのが相当である。そしてその家族構成から考えて亡義信の寄与率は六〇パーセントと見るのが至当である。

そこで亡義信が死亡時二八才の男子であるため第一〇回生命表によると同年令の男子の平均余命は四一・四七年であること明らかであるから同人が本件事故に遭わなければ、なお三七年間就労し得たものと考えられる。さらに同人の生活費として年間一二万円程度を要するものと考えられるので、亡義信の三七年間の逸失利益につき年五分の割合による中間利息を控除した現在価額を年別ホフマン式計算法によつて求めると、金三七一万二、五八四円となる。

180,000円×20.62547115(37年のホフマン式係数)=3,712,584円

(ニ)  慰藉料 一一〇万円

〔証拠略〕によると、原告モモヱは亡義信の妻であつて、亡恵美子の母であること、訴外槇国美が右義信の父同テイが母であることを是認することができる。そこで本件にあらわれた諸般の事情を斟酌して亡義信の死亡による妻モモヱの慰藉料を金五〇万円、父国美、母テイのそれを各金三〇万円とするのが相当である。

(2)  亡恵美子およびその家族の損害

(イ)  治療費 二、二九〇円

〔証拠略〕によると亡恵美子は本件事故によつて受けた傷害治療のため医療法人有田病院において施療を受け死亡に至るまでの治療費として金四、五七九円を負担し、その内国民健康保険法に基いて給付された二、二八九円を控除した残額金二、二九〇円を母であるモモヱが支出したことを肯認し得る。

(ロ)  葬儀費 五万〇、四七九円

〔証拠略〕を綜合すると亡恵美子死亡の際の葬儀費用として計金五万〇四七九円を要したことが認められるし、右費用額は相当と認むべきである。

(ハ)  逸失利益 一五二万二、九九一円

〔証拠略〕によると亡恵美子は昭和三八年九月二三日生まれの女子であることが認められるので、死亡時二才であるから第一〇回生命表によれば同年令の女子の平均余命が六八・七〇年であること明らかである。そこで、一八才から六三才まで稼働することができたと考えられるので、〔証拠略〕に徴すれば、労働省労働統計調査部編労働統計要覧の昭和四〇年製造業企業規模一〇人以上の労職、性、学歴および年令階級別賃金として女子生産労働者の平均月収は金一万五、八〇〇円であることが認められ、年収は金一八万九、六〇〇円とみるべきである。そして生活費はその五〇パーセントを超えないものと考えられるので、これを控除し、年五分の割合による中間利息を控除した現在価額を年別ホフマン式計算法によつて求めると金一五二万二、九九一円となる。

94,800円×〔27.60170602(61年のホフマン係数)-11.53639079(16年のホフマン係数)〕=1,522991円

(ニ)  慰藉料 一〇〇万円

亡恵美子の死亡によりその父母である亡義信およびモモヱの受けた精神上の損害の慰藉料額は、両名につき各金五〇万円をもつて相当と考える。

(3)  被害者槇テイの損害

(イ)  治療費 一三万二、三四一円

〔証拠略〕を綜合すると、槇テイは本件事故により骨盤骨折(右股関節中心性脱臼)右上腕及び前腕挫創の傷害を受け、昭和四〇年一一月三日から昭和四一年二月一六日まで治療のため前記有田病院に入院しその後昭和四一年四月六日まで通院して治療を受け、その間の費用として金二二万三、七三二円を要し、その内国民健康保険法にもとづく給付金九万一、三九一円を控除した金一三万二、三四一円を支出したこと、テイは右治療に拘らず結局原告主張の後遺症を生じたことを認めるに十分である。

(ロ)  文書科 一〇〇円

〔証拠略〕によると、被害者テイは前記有田病院から右傷害につき自賠保険の査定資料とするため、診断書の発行を受け、同病院にその費用として一〇〇円を支払つたことを是認し得る。

(ハ)  入院付添費 五万三、〇〇〇円

〔証拠略〕を綜合すると、被害者テイは前記有田病院における入院治療中、付添看護を必要とし、付添婦を雇い入れたため、これに対し計金五万三、〇〇〇円を支払つたことを認めるに十分である。

(ニ)  逸失利益 一二五万六、〇三八円

亡義信の逸失利益の算定につき前記に認定した事実によると、亡義信の一家は、妻のモモヱ、父国美、母テイと共に右義信が中心となつて農耕のほか酪農をも営んでおり、昭和三九年から昭和四一年までの間における亡義信らの農業酪農所得は必要経費を控除して一ケ年金五〇万円程度の純収入を挙げていたのであり、同人らの右家族構成からみて亡義信の母テイの寄与率は一〇パーセントと見るのが相当である。そして、テイは本件事故による自己の傷害治療のため、前段認定の如く有田病院に入院した期間である昭和四〇年一一月三日から昭和四一年二月一六日までは右業務に就き得なかつたものといつてよく、したがつてその休業期間である三ケ月間に純収入計金一万二、〇〇〇円相当の得べかりし利益を喪失したこととなる。

次に右テイは前認定の如く、本件事故による傷害のため、原告主張の後遺症を生じたというのであるから、昭和三五年一一月二日労働省労働基準局長通達により、その労働能力の27/100を喪失したものといえる。そして〔証拠略〕によると、テイは大正二年一二月一〇日生れの健康な女子で、本件事故当時五一才であつたことを是認し得るので、少くともなお一二年間は労働可能と認むべきである。よつて、右労働能力喪失率によつて後遺障害による右テイの得べかりし利益の喪失額を算定すると次のとおり金一二四万四、〇三八円となる。

50,000円(年間収入)×9,2151(12年のホフマン係数)×27/100=1,244,038円(円以下切捨)

(ホ)  慰藉料 四〇万円

前記に認定したテイの傷害並にこれによる後遺症の程度入通院期間等の事情を考慮すると、同人の慰藉料は金四〇万円をもつて相当と考える。

四、過失相殺

〔証拠略〕によると、亡義信は本件事故当時、排気量〇、〇九リツトルの第二種原動機付自転車の後部荷台に母テイを、進行方向に向つて右の方から横向きの状態で乗せ、同車の前部に座蒲団を置いて亡恵美子を同乗させていたことを認めることができるので、亡義信がいわゆる横乗りや、乗車設備のないところに、母テイと亡恵美子を乗せ、結局三人も右自転車に乗車していたことは本件事故の態様と併せ考え、同人らの損害を大きくした一因たることを否定することはできずしたがつて、本件事故の被害者たる同人らの損害(治療費を除く)についてはその二〇パーセントを減ずべきものと考える。

五、相続

亡義信と亡恵美子が本件事故に因り死亡したことは当事者間に争がなく、訴外モモヱが右義信の妻であつて、亡恵美子の母であること、槇芳行が本件事故当時亡義信とモモヱ夫婦間の胎児であり昭和四一年二月二八日出生したことは甲第一六号証の戸籍謄本によつてこれを是認することができるので、前記に認定した本件事故による亡義信の損害賠償請求権については妻のモモヱがその三分の一を右芳行がその三分の二を、また亡恵美子のそれについてはモモヱがその三分の二を芳行がその三分の一をそれぞれ相続したことになる。

六、損害てん補

被告および訴外内藤健二が本件事故に因り亡義信と亡恵美子の受けた損害に対し、金四万二、〇〇〇円(両名に対し各金二万一、〇〇〇円)をその遺族に支払つたこと、国民健康保険法による両名分の葬祭料金四、〇〇〇円(各金二、〇〇〇円)が給付されたこと、訴外内藤が本件事故に因り傷害を受けた槇テイに対し治療費として金三万五、〇〇〇円を支払つたこと、テイが国民健康保険法にもとづき金九万一、三九一円の給付を受けたことはいずれも被告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

そして〔証拠略〕を綜合すると、原告は本件事故の被害者である亡義信、亡恵美子の遺族である訴外槇モモヱ、同槇芳行、同槇国美、同槇テイらの自賠法第七二条にもとづく請求により右両名の死亡による損害てん補の法定限度額金二〇〇万円からその主張の控除並に加算の操作をなした結果の金一九六万三、五八〇円を昭和四一年五月九日右訴外人らに支払つてその受けた損害をてん補し、次いで本件事故に因り傷害を受けた右テイの同条による請求により、同人に対する損害てん補の法定限度額三〇万円からその主張の控除並に加算をなした結果の金四三万三、六〇九円を同年一〇月七日同人に支払つてその受けた損害をてん補したことをそれぞれ是認することができる。

してみると原告は同法第七六条により前記支払額を限度として右被害者らの有する損害賠償請求権を取得したこととなるから被告に対し、右損害てん補金合計金二三九万七、一八九円および各てん補金に対する支払日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による損害金の各支払を求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木本楢雄)

別紙(一) 被害者槇義信の家族労働報酬計算表

〈省略〉

別紙(二) 野菜関係家族労働報酬計算表

〈省略〉

別紙(三) 家族構成及び労働割合

〈省略〉

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